YAMATO criticism

宇宙戦艦ヤマトについて、または宇宙戦艦ヤマトを通して考える。

沖田艦長をめぐる物語について(その1)

 かつて岬兄悟先生が完結編ノベライズで書かれた、沖田艦長復活の経緯『重要人物特別措置』

 小説『アクエリアスアルゴリズム』にも取り入れられた設定で、岡秀樹さんが言及されておられましたが、実は自分もあの設定に触発されて沖田復活の背景を考えたことがあります。

 大筋を考えたのは復活篇の前なので、それ以降の設定は反映されていません。自分のヤマトは『完結編』までで終わっています。古代と雪はあのままヤマトと沖田艦長を見送って、その痛みを抱えながらも、共に支えあって生きていくのだと思っています。

 ヤマト発進以前にまで遡る因縁話になってしまいましたが、供養のため文章化してみました。
 よろしかったらお付き合いください。

宇宙戦艦ヤマト
 沖田十三は、宇宙戦艦ヤマトの艦医就任を依頼するべく連邦中央病院の医師・佐渡酒造のもとを訪れた。

 佐渡はかつて天才医師と呼ばれ、将来を嘱望されていた。医学界の権威ローゼンバーグ博士の知遇を得てその娘マリアの婿となり、いずれは博士の後継者になるものと目されていた。しかし佐渡は事故で宇宙放射線を被曝した妻の治療に失敗し、妻は幼い娘を残して亡くなってしまう。
 愛娘を失った博士の怒りを買い、ローゼンバーグ家から縁を切られ、出世の道を断たれた佐渡は酒に溺れた。中央病院で実験動物の管理や他の医師が嫌がるような患者を押し付けられ、半ば世捨て人のような生活を送っていたのだ。

 「先生。あんたもわしも負けた男だ。だがな、最後に笑うのは、負けて負け続けて、そのどん底から這い上がった男だ。わしはそう信じとる。先生、わしと一緒に来てくれ。わしもあんたも、最後に笑う男になろうじゃないか」
 敗北を知る者こそが、この困難な任務をやり遂げることができる。不屈の魂を持つ漢・沖田十三の言葉は、佐渡酒造を覚醒させる。

 その頃森雪は、医師の卵として連邦大学医学部で学ぶ傍ら、圧倒的に人手不足の中央病院に動員され佐渡の助手を務めていた。
 地下都市の設計者として名高い森教授を父に持つ彼女は、自分も父のように人々をガミラスの魔手から救う仕事をしたいと願い、医学生となった。
 しかしせっかく治療しても地球の将来を悲観し生きる意志を失っている患者たちを前にして、雪の心は挫けかけていた。
 ある時、雪が懸命に看護して回復した母親が、我が子を手にかけて自殺してしまう。雪は、何もできない自分に絶望する。
 そんな彼女に、佐渡酒造は言った。
「あんたが求めるものはここにはない。ここにはないんじゃ——じゃが、それが見つかる場所があるかもしれん。わしはそこに行こうと思う。あんたも来るか?」 
 雪は、佐渡とともにヤマトへの乗り組みを決意する。

 そんな雪の親友で、同じ医学生ゼルダ・S・ローゼンバーグは、大学をやめヤマトに乗ろうとする雪を必死に止める。
 実は彼女こそ佐渡酒造がローゼンバーグ家に残した娘だった。
 祖父ローゼンバーグ博士にとっては実の孫とはいえ、娘を死なせた無能な男の娘でもあるゼルダは、ローゼンバーグ家で孤独に育つ。やがて頭角を示し、ローゼンバーグ家の跡継ぎに相応しいと認められるようになるが、彼女にとっては祖父も実の父親も憎悪と軽蔑の対象でしかなかった。
 そんなゼルダが生まれて初めて心を開いた存在が、同い年で飛び級入学した大学で出会った森雪だった。
 地球なんかどうでもいい。人類など滅びようとかまわない。ただ雪と一緒にいられるならそれだけでいい。ゼルダは、雪に友情以上の感情を抱いていた。
 しかし雪は、ゼルダに「大丈夫。必ず帰ってくる」と言い残し、14万8千光年の彼方に旅立ったのだった。

 

宇宙戦艦ヤマト2』
 ヤマトがイスカンダルから帰還し、地球に平和が訪れた後も、雪がゼルダのもとに帰ってくることはなかった。
 雪はそのまま防衛軍の軍人となった。彼女の心は、古代進という男ただひとりのものになっていた。
 ゼルダは、自分から雪を奪った古代と、宇宙戦艦ヤマトの乗組員全てを憎むようになる。
 彼女は連邦大学医学部を首席で卒業し、次々に論文を発表。母校の教授に迎えられ、若くして医学者としての権威・地位を確立した。そして古代進をはじめとするヤマト乗組員とその後ろ盾となっている藤堂平九郎長官に反感を持ち軍の専横を警戒する政府高官に接近し、名声と美貌と肉体を餌にその愛人となる。
 その目的は、政府高官を操ってヤマト乗組員の結束を崩壊させ、雪を自分のもとに取り返すことだった。

 ヤマト帰還後、遺族のいない沖田十三の遺体は軍に回収され、冷凍保存されていた。
 当初は、地球の放射能除去作業の終了と首都の復興、英雄の丘の落成を待ち、正式な記念式典と国葬を行うまでの措置のはずだった。
 しかし古代進率いる元宇宙戦艦ヤマト乗組員の謀反と、彗星帝国の侵攻の混乱の中、沖田の遺体はそのまま極秘裏に保管され続けた。

 彗星帝国戦終結後。ゼルダは防衛軍反藤堂派を通じてその情報を知り、自分にその遺体を検分させるよう要求する。
 沖田の遺体を検分したゼルダは、蘇生の可能性ありとして『重要人物特別措置』を提案する。

 この度の彗星帝国侵攻のように、今後も地球が危機に見舞われる可能性はあり得る。そのような緊急事態に備えて沖田のような優秀な指揮官の存在は必要である――いまや医学界の権威である彼女の申し出に、反対できる者はいなかった。

「地球の危機」を盾にされれば、藤堂でさえ表立って反論することはできなかった。

「本当に、蘇生できるのか?」
「可能性はある、と申し上げただけですわ」
「しかし――」
「大切なのは、キャプテン・沖田の死命はこちらが握っている、と彼等に思わせることです。二度とあのような勝手な真似をしないようにね」
 ゼルダが愛人である政府高官に示したのは、沖田の存在を藤堂と古代進ほかヤマト乗組員を抑え込む切り札――いわば人質にとることだったのだ。

(続く)